スローフード運動の誕生と活動内容

〈スローフード協会の誕生〉

 1986年、会長でもあるカルロ・ペトリーニ氏は食文化を守るための団体として、スローフード協会の前身となる会をはじめ、89年より正式に協会を発足させ、「スローフード公式宣言」が発表されました。本部は北イタリア、ピエモンテ州にあるブラという小さな村。ここからスローフードの運動は世界83ヵ国、約150の都市に広がり、今では8万に近い会員が、それぞれの地域で独自の活動を続けています。各支部はコンビヴィウムと呼ばれますが、これは「ともに生きる」ことを意味します。

〈スローフード協会の活動内容〉

 スローフード協会は非営利団体で、いわば食文化を育てるためのボランティアの集まりです。考え方の柱には大きく分けて、以下の3つがあります。
 1.消えつつある郷土料理、質の高い食品を守ること。(味の箱舟)
 2.質の高い素材を提供してくれる小規模生産者を守ること。(プレシディオ)
 3.子どもたちを含めた消費者全体に、真の味覚の教育を進めること。(食育)
 協会の主な活動内容は、出版活動、食育のワークショップ、食材の研究会、テイスティングや会食です。2年に一度トリノで行われる食の祭典「サローネ・デル・グスト」、同じく2年に一度ブラで行われる「チーズの祭典」。放っておけばなくなってしまう食材を救う「味の方舟とプレシディオ〈保護品目〉」も大切なプロジェクトです。また、2004年には『食の大学』が創設され、食を多方面から学術的に研究する真の「ガストロノミー学部」と農業とエコロジーの体系的学習から新しい世代の農業従事者を輩出する「農生態学学部」が開講します。

 

スローフード宣言
悦楽の保持と権利のための国際運動


 我々の世紀は、工業文明の下に発達し、 まず最初に自動車を発明することで、生活のかたちを作って来ました。我々みんなが、スピードに束縛され、そして、我々の慣習を狂わせ、家庭のプライバシーまで侵害し、「ファーストフード」を食することを強いる「ファーストライフ」という共通のウイルスに感染しているのです。今こそ、ホモ・サピエンスは、この滅亡の危機に向けて突き進もうとするスピードから、自らを開放しなければなりません。我々の穏やかな悦びを守るための唯一の手段は。このファーストライフという全世界的な狂気に立ち向かうことです。この狂乱を、効率と履き違えるやからに対し私たちは、感性の悦びと、ゆっくりといつまでも持続する楽しみを保証する適量のワクチンを推奨するするものであります。
 我々の反撃は、「スローフードな食卓」から始めるべきでありましょう。
ぜひ、郷土料理の風味と豊かさを再発見し、かつファーストフードの没個性化を無効にしようではありませんか。生産性の名の下に、ファーストフードは、私たちの生き方を変え、環境と我々を取り巻く景色を脅かしているのです。ならば、スローフードこそは、今唯一の、そして真の前衛的回答なのです。真の文化は、趣向の問題ではなく、成長こそにあり、経験と知識との国際交流によって推進することができるでしょう。
 スローフードは、より良い未来を約束します。
 スローフードは、シンボルであるカタツムリのように、この遅々たる歩みを、国際運動へ押し進めるために、多くの支持者たちを広く募るものであります。

(この宣言は1986年にイタリアにて発表された)

スローフードマニュフェスト(2004年)

 コミュニケーションを合言葉に始まった我々の世紀は、グローバル文明、スピード文明がもつ問題を、コンピューターと同時に受け継いだ。人々の距離と関係は縮められ、情報網は拡大して行った。しかし人間は時間の中で生きる必然性と、自らの生活リズムを守る必要性から逃れることはできなかった。ファースト・フードという問題、それを成立させている状況の問題は、相変わらず手付かずのままである。規格・標準化された生産と、消費主義を第一に考える工業化された農業経済や、はかない均一化された食への傾向。いまだファースト・ライフというモデルが、生活習慣を左右しつづけ、味覚をないがしろにし、まるで誰にでも同じものを配給するのが当たり前かのごとく、安い値段で食べもの、飲み物を提供しつづけている。スローな生活という思想を、単に食事を急いでとることに対して反対したり、ファースト・フードに反対するためだけのものでなく、時間の価値が認められ、人間と自然が尊重され、喜びが存在理由となる世界を守るために発展させて行かなければならない。これらのテーマは、我々の運動当初から国際的評価を得たが、これからはすべての国に、すべての文化へ広めて行かねばならない。
 動植物の絶滅と戦うために、生物多様性をまもるために、農村文化が遺伝子操作技術の犠牲にならないよう、食に関する伝統技術と知識が失われないよう、そして共生の場が失われないよう、スローフードとともに食卓からはじめよう。食の知識を得ること、食がもたらす価値ある喜びを享受するということは、今では投げ売りされる危機にある遺産が、失われやすいものであることを認識し、それを保護することを意味する。つまり動・植物種と、生産物、料理、食物を守り、援護することである。協会の教育プログラムによって、感覚と物質を関係づける方法論によって、そして人々の中に大いなる豊かさをはぐくむ多様性によって、スローフードは農業から食文化まで、あらゆる領域を網羅する前衛運動である。
 スローフードはすべての言語を話し、より良い未来を約束する。
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