「テッラ・マードレ2010」 2010.10.21-25(イタリア・トリノ)
●開会式のようす
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●譲ってもらったとうもろこし
「テッラ・マードレ2010」種と心の交換の旅 北海道清水町在住 宮崎幸夫 10月21日から25日の5日間、国際スローフード協会が2年に一度イタリアトリノ市で開催している国際会議「テッラ・マードレ」に、スローフードの「味の箱舟」に登録されている八列とうもろこしのコミュニティ代表として参加した。 テッラ・マードレとはイタリア語で「母なる大地」の意味で、世界生産者会議とも訳されている。世界150を超える国々から、生産者や食のコミュニティを中心に、研究者、料理人、芸術家、学生など約7千名が一同に会し、5日間に渡って情報や意見を交換する。 テッラ・マードレはトリノオリンピックのスケート競技場を会場に10のブースが作られ、様々な講義や発表が1日中開かれている。テーマは農業や環境などさまざまで、多くのカテゴリーの中から自分で興味のあるものを選んで自由に聞く事が出来るが、ありがたいことに、日本語同時通訳が付いたワークショップも数多くある。 今回テッラ・マードレとしての大きなテーマは“生物多様性”と“先住民族”。日本からも、アイヌ民族を代表して札幌の島崎直美さんがパネリストを務めた。また、今回会うのを楽しみにしていた世界的に活躍する環境生物学者ヴァンダナ・シヴァのワークショップは、マレーシアの棚田で作られている「bario rice」という絶滅の危機に瀕している在来種の米を、テッラ・マードレのネットワークで救おうというものだった。 ワークショップのブース横には広いロビースペースがあり、そこでは世界中の人たちが穀物や豆、それに民族衣装や伝統的な工芸品を所狭しと並べている。どうやら販売だけではなく、物々交換も行われているようだ。私も早速持参していた八列とうもろこしと、十勝の豆を30種ほど広げて情報の交換をはじめた。アフリカのガーナから来た人が持っていたのは見た事もない珍しい豆ばかり。コミュニケーションはお互いにたどたどしい英語と身振り手振りだったが、伝統的品種の継続的な自家採種などについて話した。そして、ふと気がつくと、知らないうちに私とガーナ人の周りには30人ほどの人の輪が出来ており、「とうもろこしを10粒ほしい」、「この豆と交換してくれ」などあっという間に持参していたとうもろこしと豆はなくなり、代わりに私の手元にはチリ、エチオピア、ケニヤの豆やとうもろこしと、見たこともないような穀物がたくさん残り、豆コレクターの私としては満足度の高い“ばくりっこ”となった。 会期中の1日、国際スローフード協会が手配してくれたガイド、ロベルタさんの案内で、トリノ近郊のオットフィーレ(イタリア語で八列とうもろこし)の生産者を訪ねた。車で1時間ほど行くと、そこはすでに田園地帯。延々と続くぶどう畑をしばらく走りぬけて、ペッケリーノさんの農場にたどり着いた。ペッケリーノさんはオットフィーレのほかに、ワイン用のぶどうを6ヘクタール栽培し、伝統的な品種のトマトや玉ねぎ、パプリカなどを出荷、さらには白い牛も飼っている。まさに多品種で多様な農業をバランスよく組み立てて暮らしている。収穫を終えたばかりのオットフィーレは乾燥のために大きな金属のかごに入れられ、風通しの良い場所に置かれていた。ペッケリーノさんは来年の種子として残してあった純粋種のオットフィーレの中から「一番すばらしいもの」といって見事なオレンジ色のそれを選んで私に手渡してくれた。その他にも「大きな頭のトマト」「イタリア伝統の紫玉ねぎ」「粉用のとうもろこし」などさまざまな種を、初対面の私に分けてくれた。それは近年私のライフワークとなっている十勝の在来豆の収集と分配の活動に重なり、「種を自然に分かち合うこと」の意味を再認識させてくれた。農場からの帰り道、田園風景を見ていると、まるで十勝の道を走っているような錯覚に陥った。きっと遠くから十勝を訪れた人も、同じような気持ちで風景を見たり、地元の人のあたたかさに触れたりするのだろうと考え、このような感動を与えられる十勝に住んでいることを誇りに思った。 テッラ・マードレは学術的に充実した会議であると同時に、こうしたネットワークを世界中に広げることを目的としている。今回は同じ日本から参加していた長崎県雲仙市のメンバーとも交流し、来年雲仙市で開催される「第2回テッラ・マードレジャパン」への協力体制を約束した。「スローフードもテッラ・マードレも形ではなくネットワークだ」というカルロ・ペトリーニ国際スローフード協会会長の開会式のスピーチの通り、スローフードは世界共通の言語だとあらためて感じたイタリアの旅となった。