十勝の魅力は「農村景観」。自然に包まれた空間を共有することで、食べものの出所を知らなかった人が、見て、触って、味わって・・・感動する。土に触れ、動物に触れ、ぬくもりを感じ「いのち」とのつながりを知っていく。
グリーンツーリズムとは「緑豊かな農山漁村で、その土地の人々・生活・文化などに触れ、ゆっくり滞在すること」。
平成8年8月8日、酪農と共に、1日ひと組の小さなファームイン(農家民宿)を開設した。今年で10年目となる。こんな小さなファームインにも、口コミや雑誌、インターネットを通じて、多くの人が訪れてくれる。そして6割から7割の人がリピーターとなって再度訪れ、第2の故郷としての想いを語ってくれる。このファームインを通じて学ぶことが多かった。つくる人と食べる人の距離が離れてしまっていることを知った。この十勝に住み、すぐそばにジャガイモ畑や動物たちがいても、身近で感じられることが少ないという。ましてや都会に住み、スーパーに並ぶ食べものしか見る機会がない人には、つくりて側からの積極的なメッセージが必要となることを知った。消費者との距離は、私たち生産者の意識すら遠ざけてしまいがちだ。つくり手が責任と自信を持ち、消費者が生産の現場を知ることで、互いの理解と支えあう関係が生まれ、「食」と「農」がつながり、信頼関係が生まれる。
子どもの頃から、自然のなかで土や動物とふれあうことは、感性豊かな子どもたちにとっても多くのチャンスとなる。今、日本でも「教育ファーム」や「食育」が見直されるようになってきた。数年前、フランスやイギリスの教育ファームの現状を視察研修する機会に恵まれた。フランスでは1100戸の農場が、年間600万人の小学生を受け入れていると報告されていた。子どもたちに「食」への興味と本物の味を伝える役割〜「食育」となる。そのことが、国民の生産現場への理解を得て、大切にされる「食文化」につながる。この十勝こそ、大生産地として、自らも消費者との関わりを持つことで、顔の見える関係作りを積極的にすすめたい。高齢化が進む農村社会でも、多様な農業スタイルが確立し、農業や農村地域の持続へとなるだろう。
もうひとつ、「共に食べることは共に生きる」悦びを知った。忙しさだけの暮らしから、ゆっくり会話を楽しみながらの食卓。何より地域の食材を見直し、地域への愛着が増した。テーブルに並ぶ食材を通して、多くのことを気づかされた。グリーンツーリズムは、まさに地元で採れた新鮮なものを、地元の食べ方で提供できる。「旬」はその地の食文化、安心で安全であることと美味しさ!が何よりのおもてなし。しかし一方で、急激な社会の変化が、食を通して大きく揺らいでいることも学んだ。そんな暮らしの中から、スローフード運動に繋がっていく。(つづく)