論説「つながりを学ぶ」4回シリーズ


1.「農村景観」に学ぶ


清水町森田農場で農作業を見学

 十勝に来て30年。酪農を生業として暮らしている。

 「農村景観」という言葉に出会ったのは、確か・・・平成元年、異業種グループの主催するセミナーだったと記憶する。「十勝の魅力は、何といっても美しい農村景観、十勝の農村らしさを大切に育もう」との提案に、あらためて周りを見回した。確かに魅力があふれている。十勝の色を代表する青空、満点の星、遠くに連なる日高と大雪の山並み、白樺・カラマツ・カシワ・・・の林、四季の色、そして何より農業という仕事がつくり出す農村風景。景観とは、見た目の美しさだけではなく、五感と心で感じるもの。牧草の臭い・トラクターの音・四季折々の風・冬の凛とした寒さ・・・など等、それらのものが、美味しい食材をも育む。十勝には、ジャガイモやそばの花など美味しい景観も溢れている。心地良い景観がふるさとへの愛着心と誇りを育てているようだ。

 ところがこの30年、「農村景観」は急速に変化している。十勝は恵まれた農業地帯、大規模化が進み広々とした空間は、効率化の元に、雑木が切られ、防風林も少なくなっている。そして集約農業は、化学肥料や農薬にも頼らざる得ない状況となっている。自然の生態系の変化は、身近でも感じられる。動植物のすみづらい環境は、いずれ、わたしたち人間までもすみづらい環境となっていくだろう。このままで良いのだろうか?そんな疑問を感じ、15年程前から、私たちのような小さな農業が生き残れる選択肢を模索してきた。

 北海道の酪農家戸数は、昨年で約9000戸になっている。30年前は27000戸以上あったのだから約三分の一。高齢化、担い手不足の中で、今後10年で更に4割減少という数字も現実となるだろう。その一方、飼養頭数は倍近くまで増えている。北海道の総農家戸数も、30年前の13万戸から65000戸、約半分にまで減少している。機械化が進む中で生産高は確実にあがっているが、このまま続けていけるのだろうか?

 「環境容量」という言葉にであった。環境が許してくれる量のこと。許容範囲を超えた汚染の問題、化石エネルギーに頼りきった集約農業、今のままの農業やライフスタイルでは、この十勝の環境さえも限界が見えている。農業の持続なしには、農村地域の持続もありえない。走りつづけた20世紀から、環境(地球)と共に歩む農業や暮らしのあり方を考える時代に入っている。安心・安全を求める消費者の声、多様なニーズに応えられる、多様な農業がこれからの農業の多面的機能を生かした、小さな農業の自立の道とも言える。農業の現場が見えづらくなれば、食べものの出所さえ見えなくなっていく。景観が人に与える心地良さの中で、これからは、都市に住む人と農村の共生・共存が地域を支えていくだろう。それがグリーンツーリズムへと繋がっていく。(つづく)

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