■「多様性」こそが力になる
現在、遺伝子組み換え食品を推進している多国籍企業は世界中に散らばっています。彼らにとってはビジネスであり、イタリアだろうと、日本だろうと、どこの国であろうが関係なく活動します。それは地域を破壊しやすいものです。さらに政府やマスメディアにお金を出し、寄付したりして、多国籍企業が進出したときにはもう反対できない状況が出来上がっています。
このような大きな力に対抗するためには、全く違った種類の、大きな力が必要です。1つの場所に集中させる多国籍企業の力に対抗するためには、私たちの持つ「多様性」こそが力になるのです。私たちの町の、村の本当の力を取り戻し、私たちの、農村に暮らす生産者の力を呼び起こし、私たちの土地にある生産物の歴史を大切にしましょう。
これこそが兄弟的な団結を作るのです。私たちは多様性における兄弟です。私たちの団結は多様性、差異や違いにあります。
この多様性こそが最も強い力に成り得るのです。
もし、皆さんがイタリアに来られる機会があれば、私たちが持つ多様性を見せてあげましょう。地球に暮らす人々は皆違った言語を話しますが、積極的な交流によって私たちはもっと豊かに、もっと開放された頭脳を持つのです。これこそがスローフードの深遠な哲学です。
■ガストロノミー(食文化)
イタリアでもアメリカでも、テレビの中では誰かがフライパンを振り、いつでも見せ物をやっています。これはガストロノミー(食文化)ではなく、その最後の部分です。フライパンの中身が粗悪であれば何の意味も持ちません。ガストロノミーは料理だけではなく、農業や漁業、畜産、野生の植物から始まり、牛乳からチーズ、ブドウからワイン、米から酒が出来上がる食品加工も含まれます。
もう1つガストロノミーには経済も含まれます。皆さんが生産者を訪ねて1番最初に言う言葉は「いくら?」です。いわばガストロノミーは「交換」であり、「政治経済」です。食品には何年も前から税金が掛けられています。この税金問題も重要です。自国の産業を守るための保護政策も必要です。そうするとガストロノミーは政治経済にも関係していきます。
また、ガストロノミーは健康にも関係します。人は食べることで身体に調和をもたらします。「ガストロノミーはフライパン?」それは馬鹿げています。もっともっと複雑なものです。そして、まさしくこの理由によって私たちのスローフード運動はFAOに認定され、ヨーロッパ共同体のグループとも連携することになりました。
多くのガストロノミー研究家は「食品は記憶を持っている」と言います。食品の持つ記憶とは何でしょうか。歴史的に、食品の記憶は「飢餓」です。人々は飢えを救うために多くの食品を作ってきたわけです。原材料の貧困さは、素晴らしい料理を作るための知恵を私たちに与えてくれました。これこそが食品の歴史的な記憶です。
私たちは食べるという行為の中で、文化的な行為をするわけです。動物は文化的な行為はしません。動物はその辺で見つかるものを食べ続けるだけです。人間は文化的な行為をしなければ食べることができないのです。火を使い、発酵を促進し、香草と生産物を合わせたりすることでしょう。これこそが文化的な行為です。ですから食とガストロノミーというのは、この歴史的な瞬間において非常に重要なファクターであることが理解いただけると思います。
これらの話は、豊かな国にも、貧困にあえぐ国にも当てはまります。私たちは1つのメダルの両面に居ると考えなければなりません。片方には過食によって病気になっている人たち、または粗悪な食材によって病気になっている人たちがいます。また反対側には、食材・食品が不足しているために病気になっている人たちがいます。それらの問題を解決するために私たちは、政治、経済、文化において食はあらゆる問題の中心に据えなければならないと考えます。
私たちがそのことを推進していかないのであれば、私たちの頭脳は大量生産の方向に働くでしょう。ガストロノミーによって私たちは、直面している新しい問題に対抗していかなければなりません。