森・海・大地が育むおいしい食べ物~子どもたちの未来のために 「エゾシカ~共生のために美味しく食べる」(H23/8/21) 講師:井田宏之さん

エゾシカ編
エゾシカ協会・井田さんの講演より

 今、増えすぎたエゾシカによる農林業被害や貴重な生態系への悪影響が大きな問題になっています。シカはいつから、どうしてこんなに増えてしまったのでしょうか。
開拓前の北海道では、エゾシカ、オオカミ、人が絶妙なバランスで共存していました。ところが、開拓が始まると、肉、角、皮を求めてたくさんのエゾシカが狩られたことに加え、大雪による大量死が起こりました。絶滅しそうなほど数が減ってしまったエゾシカを何とか増やすため、政府は大正9年に全面禁猟を打ち出したのです。
その後、昭和32年にオスジカ猟が解禁になるまで、禁猟は続きました。そして、シカが激減したその間に農地開発や林業が進んだのです。
 ところが以後、エゾシカは爆発的に増えます。生息域も今ではほぼ全道に広がりました。現在の被害額は年間50億円を超えます。ハンターさんが頑張って年間10万頭も捕獲していますが、それでも全く追いつかない状況です。
平成18年には北海道がエゾシカの有効利用のためのガイドラインを作りました。適正な数を維持しながら持続的に有効にエゾシカを活用していくためのものです。また、エゾシカは野生動物で家畜ではないので、家畜のためのと畜場では処理できません。また衛生管理基準もありません。そこで食肉のマニュアルに準拠して道庁がエゾシカ衛生処理マニュアルも作りました。
 現在は、上記マニュアルに基づき処理して、検査に合格した推奨処理場は、道内に8施設あり、一部の専門店でしか入手できなかったエゾシカ肉が少しずつ一般のスーパーなどでも販売されるようになりました。「第4火曜日はシカの日」といったイベントも開催されています。ローソンが販売した弁当とおにぎりはとても好評で、10日間の予定が3日でなくなってしまいました。
 エゾシカ肉の魅力は高タンパク、低脂肪であることです。ミネラルも豊富で、特に女性が不足しがちな栄養素、鉄分がたくさん含まれています。霜降り肉が好きな人には向きませんが、霜降りの脂がきついと感じる人にはお勧めです。和洋中、どんな料理にも合います。特に中華との相性が良いですね。また、しゃぶしゃぶもおいしいです。ジンギスカンやハンバーガーでも人気を博しています。
 エゾシカ肉は臭くて硬いというイメージを持っている人が少なくないようですが、きちんと処理した肉は臭くありません。硬さは年齢によって異なるので一概に言えませんが、食肉として流通しているのは比較的若い個体が多く、柔らかいです。でも、家畜に比べると放血状態などにより個体差が出るのも確かです。その違いを楽しむのもエゾシカならではと言えます。
 毎月第4火曜日を「シ(四)カ(火)の日」と制定して、飲食店やスーパーでシカ肉に力を入れています。阿寒や南富良野ではご当地グルメとしても人気です。
 エゾシカを食べることはその被害を減らすことに役立つだけでなく、輸入の穀物をエサとして食べている家畜と比べてフードマイレージの点でも環境に優しいと言えます。
 道内ではエゾシカは肉牛よりもたくさんいます。年に20%増えるので、12万頭が持続的に利用できる計算です。これからは皮や角の有効利用も考えたいです。12万頭からは2万4千着のジャケットが作れます。
 被害を考えるとエゾシカは害獣のイメージを持ってしまいがちですが、北海道ならではのおいしくてヘルシーな優れた食材であり、北海道の森の幸なのです。

湯浅さん、会場との質疑応答より

―シカ肉はまずいというイメージを持つ人もいます。なぜでしょうか。
 ハンターの腕にもよります。打つ場所が悪かったり、後の処理が悪いと臭みが出てしまいます。また、普段スーパーで売っている肉と違って塊の肉なので、適切な処理の仕方や調理法が分からない方も多いです。
―お値段はいくらくらいですか。
 大ざっぱに言うと、ブタ肉より高いけれど牛肉より安いくらいです。枝肉の価格で、和牛は2000円くらい、ホルスタインは1000円くらい、ブタは500~600円くらい。シカ肉は1000円くらいで売りたいと思います。そのためにも、もっとエゾシカ肉の価値を伝えなければ。
―オオカミがいなくなった今、ハンターの役割が大切と聞きました。
 地域の中にハンターが必要ですが、時間もお金も手間もかかるハンターこそ絶滅危惧種です(笑)。スポーツとしてのハンティングの面白さをもっと広めなければなりません。酪農学園大学には狩猟学研究室があり、ハンターを育成しています。
―エゾシカにはBSEのような病気はないのですか。
 ニホンジカからは出ていません。また、口蹄疫も、今のところ北海道には入ってきていません。
―シカ肉の売上の一部を環境保全のためのお金に回すような仕組みはないのですか。
 今のところありません。
―どこで買えるか、どこで食べられるかをもっと簡単に知ることができるといいと思います。
 エゾシカ協会のホームページで紹介していますが、ホームページを見られない人もいますね。だれにでも分かる方法での告知を考えなければなりません。
 そして、エゾシカを食べて豊かな森を守ろうという意識がもっと広まってほしいです。ドイツは森の国として知られていますが、実は世界一シカ肉が好きな国民でもあります。1年間に1人7kg食べます。森林管理の一環としてハンティングが行われています。
 日本ももっと有効利用を進め、シカ肉の価値を上げていけばハンターの意欲も高まると思います。シカを捕るのは大変なことです。いいものを捕れば高く売れ、喜んでもらえるという良い方向性に持って行きたいのです。現状ではシカの増加率にハンティングが追い付いていませんし、エゾシカ肉を食べる食習慣を作っていくのにも時間がかかります。
 エゾシカをおいしく食べることからスタートし、自分たちの食や環境について考えるきっかけになるのです。

試食会より 塚田シェフのアドバイス

 今日は阿寒の養鹿場のエゾシカ肉を使って2品の料理を作りました。「エゾシカスネ肉とラワンぶきのスープ」と、「エゾシカのラザニア」です。
 「エゾシカスネ肉とラワンぶきのスープ」は野菜とエゾシカのだしだけで作った、あっさり味のスープです。エゾシカ肉500g、水1ℓ、塩9gの割合で、圧力鍋で30分ほど煮込みました。肉はとても柔らかいです。
 エゾシカの肉は牛肉に近く、牛肉の料理をそのままエゾシカに置き替えればいいです。「エゾシカのラザニア」もそうです。ももをひき肉にして作っていますが、臭みはほとんどなく、ほのかに香る程度です。
 今回は阿寒の養鹿場のシカ肉を使っていますので、本当に臭みがないです。ジビエが好きな方はもっと野性味が溢れる方がいいと感じるかもしれません。
 バルコにもシカ肉料理のレシピ集がありますので、ぜひ手にとって皆さんも作ってみてください。


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